【インタビュー中編】オズマガジン編集部 井上大烈さん+滝瀬美穂さん「編集すること」

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2017年11月17日、オズマガジン編集部のみなさんをお招きして開催したイベント・エディターズトークの様子を・中・後編の3回に分けてお届けしています。本記事は中編。「編集すること」についてお話を伺いました。


切り口こそが編集の醍醐味

忠地 特集決定のお話にもありましたが、オズマガジンさんは鎌倉、銀座特集など定番特集がありますよね。同じ町・テーマの特集を毎年作るにあたって、気をつけていることはありますか?

井上 たとえば鎌倉だと鶴岡八幡宮と小町通りを散策して…みたいな定番があって一年間で観光名所やお店の顔ぶれはそんなに変わりません。ただ毎年同じことを紹介しても仕方がないので、そこが僕たちの力の見せ所でもあります。

お店は同じでも紹介するメニューを変えるとすごい秘密が隠されていたとか、昨年は情報のみの掲載だけだったけれど、今年はお店の物語を見せるためにインタビューで紹介しようとか…。

滝瀬 正直、全力を尽くして作った翌年に同じ町を取り上げるのはきつい…と思うこともあります(笑)それでもリサーチを始めると、すでに知っているお店でも「ここが面白い」と新たな切り口を見つけられることが多いです。

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井上 あとは1年経つと世の中の空気感や人の心持ちが変わりますね。たとえば「去年とくらべて、疲れたときに鎌倉の海を見に行きたくなる気持ちが増しているかもしれない…」など、どのような情報を載せれば読者の気持ちに届くかということは意識しています。

同じ場所・同じ店でもいろんな物語がありますし、考え方によっては「変わらないってすごい」という紹介ができるかもしれない。その切り取り方が編集の醍醐味です。

 

表紙は書店で決める

忠地 オズマガジンの表紙は「未来ちゃん」などで人気のフォトグラファー・川島小鳥さんが撮影されることが多いですね。

滝瀬 川島小鳥さんとのお付き合いはもう10年になります。川島さんの写真にはいつもハッとさせられます。心の内まで見透かしているような、被写体自身も気づいていない笑顔を引き出してくれます。

以前、撮影の合間、川島さんがわたしのカメラで古川編集長を撮っていたことがあるんです。その写真に写る古川の表情がものすごく良くて。「弘法は筆を選ばず」じゃないですけれど「川島小鳥はカメラを選ばず」だなと思いました(笑)

忠地 たしかにオズマガジンの表紙にはグッと惹きつけられます。表紙写真はどうやって選んでいますか?

井上 表紙で一番大事にしているのは、書店で力を持てることです。簡単に言えば目立ったり、オズマガジンらしさが伝わるということ。なので、表紙のデザイン案を書店に持っていって、最終的にどのパターンにするか決めます。

忠地 書店に持っていくのですか!

井上 書店に持っていくことで、お客様が手に取る瞬間を想像できますし、他の雑誌との相対的な見え方も意識できます。たとえば夏、他の雑誌の表紙に爽やかな色が多い時は濃い目の色の方が目立ったりしますしね。不思議なことに書店で表紙を見くらべてみると絶対A案だと思っていたのにB案が採用されたりするんですよね。

 

思い出深い特集

忠地 井上さんはオズマガジン編集部のメンバーになって11年目、滝瀬さんは7年目ですが、一番思い出深い特集を教えてください。

井上 2015年1月号の「台湾」特集です。僕自身、海外の特集をするのが初めてでしたし、台湾に詳しくなかったので現地で色んな情報を聞いてオズマガジンらしい切り口は何だろう?と考えて。通訳などのスタッフのアサインにも慣れておらず…いや〜、大変でしたね(笑)

ただ、面白いことに台湾特集では人の縁の大切さを感じました。情報を入手するのにネットワークが大切だったり、現地コーディネーターとの出会いだったり。

特に思い出に残っているのが、一人の書家さんとの出会いです。取材に行ったら「この人有名だから何か書いてもらいなよ!」と言われ、台湾の方の笑顔が素敵だな〜と思っていたので「台湾笑顔」と書いてもらいました。すると思いのほか味わい深い良い字で。偶然の出会いと直感を信じて誌面に採用。特集ページのタイトルとして最初のページに掲載させていただきました。

雑誌はいつものスタッフを揃えて失敗しないように作ることもできます。でも僕にとって台湾は右も左も分からない土地。だから事前に予定のなかった書家さんの字を取り入れるというライブ感を大切にでき、誌面に台湾の生き生きとした空気が吹き込まれました。人のつながりが雑誌をクリエイティブにする影響を再発見できましたね。

忠地 滝瀬さんにとって一番印象に残っている特集はありますか?

滝瀬 わたしは2016年7月号の「カフェ街さんぽ」特集です。わたしはカフェが本当に好きで好きで。仕事とプライベートという境目を作らず常に好きなことを考えてきたので、自分の「好き」を特集にできて幸せでした。この特集が出来たので会社を辞めても良いんじゃないかと思ったくらいです(笑)

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忠地 辞めちゃダメです!(笑)

滝瀬 特集の後半で「東京名カフェめぐり」という誌面を作り、その中でライターの川口葉子さんとフードエッセイストの平野紗季子さんに対談してもらったのが印象深いです。川口さんが数年前に取材したカフェで平野さんがアルバイトしていた…という話で二人が盛り上がっていて…「ご縁ってすごいな〜」とじんわり感動していました。

実は「平野紗季子さんに話を聞いてみよう」とアドバイスをくれたのは井上だったんです。編集部内でコミュニケーションを取りながら良い号ができたので、それもうれしかったですね。

井上 「カフェ」という自分の好きな分野に関する知見を、こつこつ蓄積していた滝瀬だからこそ作れた誌面でした。好評でしたね。

(書き手:忠地七緒 撮影:木村直登)


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