【Girl’s REAL vol.2】(前編)夏目志乃/女優

女の子の撮影中、時に深い話をすることがあります。「なぜモデルになったの?」「将来は何をしたいの?」答えを聞くと、驚くほどよく考えていて、先を見据えていて、真面目で情熱があって。見た目のかわいさとのギャップに驚かされることが本当によくあります。

「かわいい女の子」だけではない。一人ひとりが個性的でとっても面白いんです。そんな女の子の本質をもっと多くの方に伝えたくて、インタビュー企画を始めました。きっと写真だけを見るときより、何倍も何十倍もその女の子のことが知れるはず。そして文章を読んだ後、写真を見返すと、また写真の見方も変わってくるはずです。

今までの道のりを 本当の気持ちを 言葉と写真で紡ぐ
新感覚インタビュー「Girl’s REAL 」


vol.2 夏目志乃(女優)

忠地 今の仕事についたきっかけを教えてもらっても良いですか?

夏目 最初の最初は小学校4〜5年生の時にずっと一緒にいた憧れの女の子がいて。その子の家に行って服を借りて着させてもらった時に、その子が「しの、モデルになりなよ」って軽く言ってくれて。それを本気にしたのが始まりかもしれないです。

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忠地 社会人としては美容師から始まったんだよね。美容師から芸能関係のお仕事にどうやってついたのか教えてもらっても良い?

夏目 なんか、インタビューみたい(笑)

忠地 インタビューだよっ(笑)

夏目 両親が結構厳しい家庭で育っていて。小学校の時に友だちにそう言われてから、雑誌『nicola』のモデルオーディションを受けたいってずっと思ってたんですけど、親に言い出せなかった。でも応募用紙には親の名前を書かなきゃいけなかった。今考えればそんなの自分で代筆すればいいのに、その時は勇気がなくて。

忠地 分かる、分かる。

夏目 で、書き終わったnicolaの履歴書をずっと出せず持ってました。高校生で進路を決める時にやっぱり、芸能関係の仕事を諦められなくて、初めて親に打ち明けたんです…。お父さんからは「モデルになれる子は今までオーディション受けたりして動いていた子とか、街中が騒ぐような美女とか…そういう子ばかりだから現実を見なさい」って言われて。お母さんが「じゃあ、そういう女の子を近くで見守れる仕事に就いたらきっと楽しいと思うよ」って言ってくれて美容師になったんです。

忠地 モデルになりたいって気持ちをご両親に打ち明けて、お母さんに美容師を勧められて…気持ちはすぐに整理できたの?

夏目 実際、高校生にもなると、自分でオーディションに行ったりもしていたんですけど、なかなかうまく行かないことが多くて。

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忠地 オーディションに受からないってこと?

夏目 そうです。ちょっと現実を見たというか…「やっぱり無理なのかな」って思ってたときで。すごく覚えているのは、高3の時に恵比寿でバレンタインイベントがあって。芸能人ゲスト3人が来て、その3人にバレンタインチョコを渡すだけのオーディションがあって。渡すだけなのに、落ちました…。

忠地 うああ、落ちた…。

夏目 そう。「渡すだけなのに…」ってすごくショックを受けたのを覚えています。しかも受かった子が大手事務所に入っている子だったんですよ。

忠地 事務所かー。

夏目 私も「事務所か…」って思って。そのタイミングでお母さんに美容師を勧められたし、親に「手に職を持っていたら、いつか使えるときが来るから」って言われて。もちろん「芸能界に行きたいな〜」という気持ちはもちろんあったけれど、美容師の方向に進みました。

忠地 それで高校卒業したら専門学校に行ったの?

夏目 そうです。でもちょこちょこ自分では動いていて。当時、青文字系の読者モデルの募集が色んな雑誌にあって、応募していたんです。でも連絡は全然来なかったです。

忠地 あ、そうなんだ。

夏目 だから専門学校卒業して、20歳のときに美容室に就職しました。でも入社してすぐのタイミングで奇跡が起きたんです。たまたま、前に応募した雑誌の編集者さんがサロンに撮影に来ていて。そのとき「あれ、数年前に読者モデルの募集に送ってくれてた?」って気づいてくれたんです。

忠地 すごい。ミラクル。

夏目 ちょうど読者モデルのオーディションを始める時期で「出たらお客さんも増えるし、お店のPRにもなるよ」ってオーディションを勧められて。その時はもちろん美容師を続けたい気持ちが強かったので「いい宣伝になれば良いな〜!」って思って受けたら、ファイナリストになりました。

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忠地 えー!すごい。

夏目 じゃあ次は「普通の誌面にも載ってみようか」って誘ってもらって。私服ページに出だしたらTwitterで「応援してます」ってコメントをもらうようになりました。「私、もしかしたら…モデルの仕事もできるのかな」って思い始めたんです。

忠地 うんうん。

夏目 それで、踏ん切りが「ふんっ」てついたのが…。

忠地 その言葉、いいね(笑)

夏目 うふふ。サロンでちょっと陰口を叩かれているのを知ってしまって。たしかに休みの日は撮影が多くて、サロンワークに甘えがあった部分もあって。その時「美容師という仕事を頑張って、悔しい思いを見返すぞー!」とは思えなかったんです。

忠地 なるほど。

夏目 「あ、美容師やめよう。私はやっぱり芸能関係の仕事がすごくしたい」って思って、翌日に社長に退職しますって伝えました。はたから聞いたら無責任野郎なんですけど…。それが22歳のときです。

—-

忠地 22歳で美容室を辞めて、そこから今までどういう道のりを歩んできたんですか?

夏目 …色々ありすぎて覚えてない(笑)退職後1年はフリーランスのモデルでした。正直、雑誌に載っていたらどうにかなるんじゃないかなって思っていて。でも自分が頑張りたい気持ちと、みんなからの反応と、編集者さんからの期待値のギャップがありました。

忠地 ギャップってたとえば?

夏目 言ってしまえば、モデルとして二軍だったんです。私は一軍で活躍したかったけれど、二軍を経ないと上には行けないっていう現実もあって。

忠地 あー…。うんうんうん。

夏目 その焦りがすごくありました。自分がなかなか撮影に呼ばれないことで葛藤もあったし、つんけんしちゃった時もあったし。気づけば雑誌の仕事も減っていきました。

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忠地 それは、怖いね。

夏目 雑誌に呼ばれなくなって、やばいって思ったタイミングで、たまたま知り合いが芸能事務所に入っていて。「今、募集してるよ」って言われたから話を聞きに行ったら、自分のことを理解してくれる同年代の女性マネージャーさんがいて、その人が一緒に頑張ろうって言ってくれたから事務所に入ることにしました、でも…空回りしちゃったんです。

忠地 うんうん。

夏目 自分は雑誌に出ているし、これだけ仕事してきたし、頑張ってきたし…っていう気持ちがすごい強くて。だからマネージャーさんに「この仕事やってみようね」って提案されても「この仕事は私がやるべきじゃない。もっと違う仕事がしたいです」みたいなことを言ってしまって。1年半位経って辞めることになりました。

忠地 それは大変だったね。

夏目 もう…どうしようって思った時に、たまたまCMの現場で同じになったモデルさんに現状を相談したら、「もしよかったら話だけでも」って言って、ご自身が所属している事務所に誘ってくれたんです。その時、お話したマネージャーさんが目の前にいる私を考えてくれる方で。

忠地 どんなことを話したの?

夏目 今まで言われたことない言葉ばかりかけられました。たとえば口角が下がっているから上げた方が良い、とかあなたの発言はマイナスなものが多くて、今までの人生でどんな経験をしてきたかよく分かるけど、これからはやめた方が良いって。ただ話を聞きに行くだけのつもりだったんだけど、感情が溢れてうわって泣いちゃって。

忠地 うんうん。

夏目 「もし力になれることがあるなら、一緒に頑張ろう」ってその場で言ってくれて、24歳から26歳までお世話になりました。

忠地 2年間…今までと比べて長いね。どんな仕事をしていたの?

夏目 事務所に入った時はCMをやりたい気持ちがすごい強かったです。事務所に入った安堵感もあったし「事務所に入ればきっとCM決まるでしょ」みたいな気持ちで動いてました。ただ、なんて言ったら良いんだろう…。CMってあまり「わたしらしさ」はあまり見てもらえなくて。

忠地 確かにCMは際立った個性がない方が良い場合もあるだろうね。

夏目 だから今まで着ていた古着を全部捨てて、白のブラウスにデニム、ロングスカートみたいな服装をして。自分が好きなことというよりは、クライアントさんがどんな子を起用するかを考えて動いていたんですけど、次第に自分がやりたいこととか分からなくなってきました。

忠地 事務所の意向に沿うことは、どの事務所にいた時でもやっていたことなの?だって古着を捨てたりって、嫌じゃん…。

夏目 多分、自分の中で古着というイメージを捨てたいって気持ちが強くて。読者モデルっていう肩書を捨てて女優としてやっていきたいっていう気持ちをマネージャーさんが理解してくれていたからこそ「古着は違うよね」って言われていて。その指示に従って平均値に寄せていってたんですけど、仕事は決まらなかったんです。

忠地 あー、なるほど。

夏目 昔のイメージを捨てたいから、今までつながりがあった人から依頼された仕事も断ったりとかしてました。

忠地 そっか…。

夏目 私は、昔の私を知ってオファーしてくださった仕事でもやってみれば何かつながることもあるかも…って思っていたんですけど、マネージャーさんは「大きな仕事をさせてあげたい」という気持ちが強くて。契約更新月に私は更新するつもりだったんですけど、マネージャーさんに一旦落ち着こうって言われて。「俺は志乃ちゃんの力になれることはやってあげたいと思っているけど、現状が辛いと思っているなら無理して続けることはない」って言われて、腑に落ちたんです。たくさん悩んだ末、昨年末に事務所を辞めました。

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忠地 何が一番つらかった?

夏目 えー、何だろう…。マネージャーさんがこんなに動いてくれているのに仕事が全然決まらなかったり。自分の着たい服も定まらず、キャスティング会社に顔見せに行っても「服に着られているよね」「もうちょっと自然な雰囲気が見たい」って言われたりとか。

忠地 えー、そんなこと言われるんだね…。

夏目 そもそも、今が自然じゃないし、何が自然なのかも分からないし、本当にいっぱいいっぱいだったんです。自分は演技で生きていきたいのに、小さな仕事はさせてもらないし、大きな仕事は決まらない。「どうしたら良いの?一生、足踏みじゃん」って。そのもやもやが辛かったかなぁ…。

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忠地 その事務所にいる時にミスiD2018を受けたんだっけ。

夏目 受けました。マネージャーさんに自分の意見を押し通して無理やり受けたんです。

忠地 ミスiDはそもそもなんで受けようと思ったの?

夏目 んーっと、何だろう…。自分の周りで出ている人がたくさんいて。その人たちがミスiDに出たことでターニングポイントになっているなって思ったんですよ。ミスiDに応募したことで運が動き始める人たちを見ていて。

忠地 運が動き始める…。

夏目 今まで事務所に入った安堵感だったり、オーディションを受けているという安堵感にひたっていた自分自身とは違って、ミスiDを受けた人は、そのことによって頭一つ抜けた気がしていて。自分のジレンマを打開するにはもしかするとこれなのかもしれないと思ってミスiD2018を受けたんですよね。でも応募書類で「自分の長所は何ですか?」という項目があって、全然書けませんでした。

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忠地 なぜ書けなかったの?

夏目 うーん。未だに自分の強み、分からないからかな…。多分、この業界を目指すにあたって色んな人に否定されすぎて、自分の長所が分からない…

忠地 否定…。

夏目 小中学校の時から芸能関係の仕事をしたいと思っていて、その頃は無邪気に友達に言っていたりもしてたけど、影で「あいつ、芸能人になりたいって言っているけど、何言ってんの?」「いやいや、自分の顔見ろよ」とか言われてて。

忠地 そっか…。でも書類が通って最終的にファイナリストになったんだよね。ミスiDオーディション、挑戦してよかった?それと後悔していたりする?

夏目 後悔はしてないけど…すごく自分の見え方がハッキリした気がします。審査員さんからコメントをいただくんですけど。私、そのコメントに「いい人」ってことばかり書いてあって。「とにかくいい人」「すごいいい人」「こんないい人いない」というようなことが書いてあって。わたし「いい人」でしかないのかな?って気持ちはすごくあった。

忠地 ちょっと不本意だったの?いい人として見られるのは。

夏目 うーん…。この業界においても人生においても、いい人であることはもちろん大事だと思うけど、それだけじゃダメだろうなっていうのは思ってて。審査する立場の人たちに、いい人っていう印象しか与えられなかったことがすごく悔しかった。

忠地 ファイナリストまでいけたことは嬉しい?

夏目 ファイナリストに残ったことはうれしかったけど、ミスiDはただの通過点だと思っていたから「いえーい!」って盛り上がる感じではなかったかな。でも、応援してくれる人が増えた感覚はあるし、撮影で「ミスiD出てましたよね」って覚えてもらえるようにはなりました。

忠地 2年間お世話になった事務所はミスiDが終わってからやめたの?

夏目 ファイナリストの後、最終面接の段階でやめました。

後編はこちら


夏目志乃/女優
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Staff
・hair & make:小野紗友美
・stylist:谷川夢佳
・photo & interview & text:忠地七緒
・衣装協力:NotreParc