第1話:バツ、バツ、バツ。最後に二重丸をつけた陶芸/十場あすかさん

今年2月に個人的に取材させていただいた陶芸家・十場あすかさん。今日から4回にわたってインタビュー記事をお届けします。

出会いは2022年の暮れ、東京・清澄白河にある雑貨屋『WOLK』で開催されたあすかさんの個展でした。彼女の手から生まれる器は、一見シンプルですが、夢を散りばめたような美しさがあり、目にする度に心の奥がきゅんとなるのです。

あすかさんは特定の師を持たず、独立。4人の子を育てる母でもあり、10年間育児に専念した後、2017年に本格的に作陶スタート。一般的な陶芸家が歩む道とは異なる道のりにぐっと興味が湧き、お話を聞かせてもらうことに。

今年2月、神戸の淡河町へ。偶然、私のふるさとの近く。雪がまだらに残る六甲山を越え、山あいの町を奥へ奥へ。目前に広がる田畑、家の前に無造作に置かれたまあるい円球。ここが、あすかさんと陶芸家の夫・十場天伸さんが暮らす自宅兼工房。

とん、とん、とん。大根の葉を刻む音が傍らから聞こえてきます。天伸さんが昼ごはんの支度をする中、あすかさんに人生のこと、ものづくりのこと、ゆっくりお話を伺いました。

「私、本当は普通の仕事をしたかったんです。医療事務とか、そういうちゃんとしたお勤めに憧れて、最初は福祉の仕事を志しました。両親が公務員だったのもあって、仕事ってそういうもんやと思ってたから」

けたけた笑いながら、人懐っこい表情で語るあすかさん。今の作家としての活躍からは想像もつかない現実的な話がのっけから飛び出し、引き込まれます。

「手っ取り早く自立できそうやから福祉を選んだと思う。広島の実家にいた頃は割と親の制約下にいる感覚があって、早くそこから出たくて。でもね、進んでいく途中で『あ、やばい、こっちじゃない』って気づいたの(笑)」

たとえば、実習の時、利用者のおばあちゃんとは仲良くなれそうなのに、スタッフとは噛み合わないと感じたこと。アルバイトの面接でスマートな受け答えができず落ちまくってたこと。なんか違う、なんか違う。

「で、20歳くらいのときかな、バイト先の友人に編み物を教えてもらって『黙々とものをつくることやったら夢中でできるわ!』って気づいたんです。やりたくないことにバツをつけていったら、ものづくりにたどり着いた」

腹を決めたらすぐ行動。京都伝統工芸専門学校(現・京都伝統工芸大学校)へ入学。伝統工芸を選んだのも、なんとも地に足がついた理由です。

「ウェブサイトに就職率96%って書いてあったんです。ここに行けば、とりあえず就職して、自立できそうって(笑)」

木工、竹工芸などさまざまな専攻から陶芸を選んだのは、手で生み出すおおらかな世界に惹かれたから。見事、みっちりはまったあすかさんは、2年間、朝から晩まで打ち込みました。

「色んなことにバツしてきたけど、陶芸は違ったの。『丸!二重丸!』みたいな(笑)ああ、これで自立できるって思いました」

次回は、陶芸家としての独立秘話、その後すぐ訪れた大きな転機について伺います。


十場あすか
陶芸家。1983年広島県生まれ。2007年に夫・十場天神さんとともに神戸・淡河町にて独立。育児で10年休業のち2017年に復帰。白を基調としたおおらかな作風が人気。@asukajuba

七緒
写真と文。1987年神戸市生まれ。上智大学新聞学科卒業後、雑誌編集者を経て2017年独立。ポートレートやライフスタイルを中心に撮影・執筆。@naotadachi