第3話:“雑い”のにしっくり馴染む。十場あすかの器論/十場あすかさん

独立後すぐに、妊娠していることがわかった十場あすかさん。10年間は子どもとの暮らし第一。楽しみつつ、葛藤を抱える日もあったことを第2話では伺いました。

そして2017年に陶芸家としての活動を再開。田んぼで採れる稲わらの灰からできた藁白釉(わらばいゆう)を生かした白の作風。おおらかで、あたたかくて、暮らしにすっと馴染む作品の数々。

今、ものづくりで大切にしていることは?

「なんでもないけど、存在感のあるものを目指しています。もともと白い器を作りたいと思ってたわけじゃないんです。子育て中に『やっぱりシンプルがいいな、白が落ち着く』と思い至って。なんやろうな…天伸が買ってきた李朝の器かな。“雑い”のに馴染む。こういうのを作りたいって思ったんかな」

李朝の器とは14世紀から19世紀頃まで続いた李氏朝鮮で作られた白い器のこと。素朴で、どっしり、それでいてやわらかな佇まい。

「この器、なんでもないじゃないですか。重さもあるのに、毎日手に取っちゃうんです。心赴くまま作ったら自然とこうなった感がいい。あと、主張の強い天伸の器が家にたくさんあるでしょ?なおさら『なんでもないって素晴らしい』みたいな気持ちもある(笑)」

白といっても、真っ白じゃない。ゆらぎのある色あいとざらりとした質感があすかさんらしさ。土を混ぜあわせることで雑味を入れて、薪で焼くことを大事にしています。

「ツルンとしたくないんです。その方が長いこと一緒にいられる気がして」

たとえば電気窯は、同じ色・トーンのものを何枚も生産することに長けています。安定して制作できるため、お店やギャラリーから求められることも。

一方、薪窯は炎で焼いていきます。火をくぐることで、想像もしえなかった色の変化やグラデーション、ゆらぎが生まれるのが特徴。

「全く同じものを100枚作っても私は面白くないと思っちゃう。人間だって同じ人はいないし、そういう所がいいなって思うから」

次が最終話。陶芸を生業にしたあすかさんの今後、そして第1話で話していた、果たして「自立したのか?」というお話を探っていきます。


十場あすか
陶芸家。1983年広島県生まれ。2007年に夫・十場天神さんとともに神戸・淡河町にて独立。育児で10年休業のち2017年に復帰。白を基調としたおおらかな作風が人気。@asukajuba

七緒
写真と文。1987年神戸市生まれ。上智大学新聞学科卒業後、雑誌編集者を経て2017年独立。ポートレートやライフスタイルを中心に撮影・執筆。@naotadachi